HO4、テリーの会話SS
インスマスから逃げ延びた車内で見たのは知った背中と短く切りそろえられた俺よりも色の濃い金髪。高速で走る車内で名前を呼ばれれば思わず大きな声で彼の名前を口にした。
「久しぶりだな、テリー」
『エリック!生きていたのか!?』
何という再会の仕方だろうか、死んだと思っていた親友との再会。今後の作戦や方針を話しながらではまともな思い出話も出来ず、一同でNYに行くことが決定しアムトラックのチケットを購入する。
各々が座席に座るり一息つくと、全員に断ってエリックを個室席に誘った。積もる話も有るだろうしと了承してくれた皆に背を向け足早に室内に入り込む。追手が来ているかもしれない事を考慮し扉を施錠するとお互い座る事もせずに正面から向き直る。外から差し込む陽光にキラキラと光る彼の金髪は眩しく、真っすぐにこちらを見つめる瞳は相変わらずの澄んだブルーで。
懐かしさに浸りそうになる気持ちをぐっと堪え口を開く、何をしていたのか、ジラフマンは何者なのか、何処まで知っているのか。聞きたい事を紡げば隠している様子もなく彼は心地の良い低温で言葉を紡いだ。
「…と言ったところか」
『成程な、これは皆に共有するぞ』
「あぁ、好きにしてくれ。」
会話の合間で入る、少し緊張感の抜けたため息。一気に話をしたせいか自分の呼吸はらしくもなく少し乱れていた。再び目の前の男を見据えれば、その腕は真っすぐ俺に伸びそのまま抱き寄せられる。きつく確かめるようなハグに一瞬動揺こそしたが、おずおずと此方からも背中に腕を回した。
「会いたかったよ、テリー」
『それはこちらの台詞だ……おかえり、エリック』
複雑な気持ちが絡み合い、言葉に出来ない分きつく互いに抱きしめあう。もう会えないと思っていた親友に会えた喜び、まだ腹の中で何かを隠している確信、今後の動向への不安。考えれば考えるほど自身の眉間には皺が寄り、回した掌に力が入った。
何分ほどそうしていたのか、お互いにゆっくりと体が離れる、まだ鼻先が付くのではないかという距離でエリックは俺の髪を一房掬い上げると、まるで愛おしい者でも見るような慈愛に満ちた眼差しで長くなった髪束を見つめる。
「…随分伸びたな」
『そうだな、まぁ願掛けみたいなものだ。』
「俺への…か?」
どこか嬉しそうな雰囲気を漂わせながら手入れの行き届いたブロンドを指先で撫でる仕草は誰であろうと落ちてしまうだろうと思う程に様になる。見慣れていたとはいえ至近距離で顔のいい男に自分の髪を褒められれば、流石に少し頬に熱が集まるのを感じ指先から髪束を取り返す。
『自惚れるなとは言わん、お前を探していた期間で気が付いたら伸びていた。手入れはしているがな。』
「…そうか、それは嬉しいな」
『全く…こういう事は女にでもやってやれ』
そう話しながら距離を取ろうと一歩下がれば、エリックの腕は俺の腰に回され再び緩くハグをされる。おい、と声を掛けるも腕の力は僅かに強まり、覗いてくる顔は先程よりも近く、いくら親友だからとはいえ僅かに息をのんだ。
「こういう事、女性にしたいんじゃなくて…俺はテリーだからしたかったんだよ」
『……お前、それは誤解を生むぞ』
「ハハ…そうだな」
『…少し皺が増えたな、お互い歳を取った』
「まぁ…四年だしな。俺はまたお前と会えて…本当に嬉しい」
ここに来てからもう何度目のハグだろう、きつくきつく回される腕にどういう感情が籠っているのか、詮索も出来ないまま半ば呆れつつも再び緩く抱きしめあう。
「状況が状況でなければ、この後お前と一杯やりたかったんだがな」
『そうだな…この事件が解決してお互い生きていれば、俺が一杯奢ってやる』
「いいな、なら俺はその次の店で奢るよ」
他愛もない話だった、だが安堵を得るには十分だっただろう。今度こそお互いにゆっくりと離れると見つめあいながら微笑みあう。部屋の鍵を開け、似た歩幅で室内を出ればガタンゴトンと列車特有の音が響く通路を通り皆の所に戻る。シャロンの揶揄いに軽くせき込むも、どうしても感じてしまう安堵に浸りながら、溶けかけていたアイスにゆっくりとスプーンを差し込んだ。
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